付記:オカシオコルテス、バーニーサンダースとベーシックインカム 2019年5月19日 (2020年3月5日加筆) 荒井潤

はじめに

これは、「ベーシックインカム・ウェイブ in Japan」

https://www.facebook.com/groups/1088754734558560/permalink/1892199664214059/

 

に投降した文章を2020年3月5日に少しだけ加筆したものです。

 

2020年大統領選の民主党予備選に出馬したアンドリュー・ヤンが「18-64歳のアメリカ国民に月1000ドルずつ配る」という内容の「Freedom Dividend(自由の分配)というユニバーサルベーシックインカム(一部の人たちではなく、すべての人たちに配るベーシックインカム)を、アメリカ大統領選に出馬した人間として初めて、選挙公約として掲げました。

 

ベーシックインカム政策に親和性が大いにありそうに思われる、同じアメリカ民主党のおもわれるオカシオ=コルテス、バーニー・サンダースは、それについてどう考えているのか、英語サイトを調べてみました。

 

英文を和訳した際に意訳している部分があります。和訳文と共に丸括弧内に原文を示しておきました。 

1 オカシオ=コルテス下院議員とベーシックインカム

今年2019年の2月5日、アメリカ民主党のオカシオ=コルテス下院議員の議会事務所がブログに公開した「エネルギー問題(“energy issues”)」という、グリーンニューディールについて詳しく書いた論考のFAQの中に、「就業不能な人達及び就業を望まない全ての人達に経済的保障(economic security to all who are unable or unwilling to work)を提供する」という一文がありました。

 

これはベーシックインカムの範疇に属する経済的保障と考えられます。

 

これに対して、ほとんどの政治家や政治評論家は、「就業を望まない人=怠け者」と受け取って反発しました。それに対してオカシオ=コルテス下院議員の事務所は、

 

「人々は労働条件の劣悪化や飢餓状態になるような限度を超えた低賃金労働やその他の虐待を市場から受けることを拒むことを望む場合がありえるが、その場合に政府はベーシックインカム類似の社会政策を実行することによって、そのような労働を拒んだ人達がよりよい仕事に移行することを簡単にするためにことができるだろう(people may wish to refuse degrading working conditions, starvation wages and other abuses from the marketplace:https://basicincome.org/…/aoc-buckled-under-pressure-ove…/より)」

 

という説明を試みようとしたが、結局、7日の午後までに全文を削除し、議会に提出したグリーンニューディール決議案の中にはベーシックインカムの範疇に属するくだりはありませんでした。

 

とはいえ、アメリカ議会に提出するグリーンニューディール決議案の初稿において、「就業不能な人達」に対する経済的保障だけでなく、心理的・肉体的・報酬的に過酷・不当な労働を強いられた全ての人達に対しても「食うため生きるためにやむを得ずそういった仕事に就かないでも済む」経済保障としてのBIが提案された事実は消えません。

 

そして、次のネット記事、 Alexandria Ocasio-Cortez and Bill Gates Agree: Robots Are Great (as Long as You Tax Them) https://www.inc.com/…/alexandria-ocasio-cortez-bill-gates-a…

 

によれば、 今年の3月10日、彼女はテキサス州オースティンで開催されたサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)での、聴衆からの、

 

「オックスフォードのレポートが今後25年以内に、現在の仕事の半分がAIによって置き換わることを預言しているが、危惧しているか?(if she was worried about AI replacing workers (one recent Oxford report predicted half of all current jobs would be replaced within the next 25 years)」

 

という質問に対して、次のように答えています。

 

「私たちは、労働のAIロボット化によって職を失うことの恐れにとりつかれてはいけません。私たちは(料金自動徴収システムとって変わられたために)、もうこれ以上料金を徴収する必要がなくなっ(て失業し)た徴収人のことを気に病むべきではありません。私たちはそれにエキサイトすべきです。しかしそうできないのは、仕事がなければ生きていけない社会に生きているからです。そしてそれこそが私たちの根源的な問題なのです(“We should not be haunted by the specter of being automated out of work,” she said in response. “We should not feel nervous about the toll booth collector not having to collect tolls anymore. We should be excited by that. But the reason we're not excited by it is because we live in a society where if you don't have a job, you are left to die. And that is, at its core, our problem.”)」

 

「AIロボット化による失業によって将来的には、独学する時間、芸術を作る時間、科学に投資したり研究調査したりする時間、発明に集中する時間、宇宙に行く時間、自分たちが住んでいる世界をエンジョイする時間がもっと多くもたらさられうるでしょう。(What it could potentially mean is more time educating ourselves, more time creating art, more time investing in and investigating the sciences, more time focused on invention, more time going to space, more time enjoying the world that we live in. Because not all creativity needs to be bonded by wage.")」

 

このサイトには次のような記述もあります。

 

「しかし、サウス・バイ・サウスウエストにおいてこの民主党の神童(=オカシオ=コルテス)は彼女と時々世界一の金持ちにランクされる男(=ビル・ゲイツ)が少なくとも一つの課税の大きな方向に実際に同意していることをあきらかにした。今、二人はいずれも仕事を盗むロボットへの課税に賛成であることを公言している。(“But at SXSW, the Democratic wunderkind revealed she and the sometimes world's richest man actually agree on tax in at least one big way. Both have now come out in favor of taxing job-stealing robots.”)」

 

この点について、別のサイトの記事、 Alexandria Ocasio-Cortez says ‘we should be excited about automation’ https://www.theverge.com/…/alexandria-ocasio-cortez-automat… の中に、

 

同じ日同じ場所のオカシオ=コルテスの発言について次のような記述があります。

 

「この女性議員(=オカシオ=コルテス)はビル・ゲイツが人間の労働者にとって替わるロボットへの課税について議論していることに言及した。(彼女は『ゲイツは課税率90%のロボット課税を提案している』と述べたが、私たちは彼の声明の中にその数字を見つけることはできなかった。)(The congresswoman referenced a proposal from Bill Gates, who has discussed a tax on robots that replace human workers. 〔While she stated that Gates suggested taxing robots at 90 percent, that’s not a number we’ve found in his statements.〕)」

 

(なお、これはロボット税の話ではないが、ビル・ゲイツはオカシオ=コルテスの、所得税の最高税率70%に引き上げる提案については、その税率では富裕層がオフショアの口座に資産を隠すことを促進するだろうという理由で、反対している:筆者註)

 

上記の二つの、サウス・バイ・サウスウエストでの彼女の発言に関する記事によれば、

 

①AIロボットが人間の労働者にとってかわる流れにはベーシックインカムで対応すれば大丈夫。

 

②そのベーシックインカムの財源としてロボット税を(orも)視野に入れている。この点について自分とビル・ゲイツは同意している。

 

③BIによって仕事がなくても人間は生きられる世界が実現し、独学する時間、芸術を作る時間、科学に投資したり研究調査したりする時間、発明に集中する時間、宇宙に行く時間、自分たちが住んでいる世界をエンジョイする時間がもっと多く人間たちにもたらさられうるだろう。

 

④だから、AIロボット化によって職を失うことの恐れにとりつかれるべきではなく、むしろエキサイトすべきだ。

 

というのが彼女の考えだと読めます。

 

サウス・バイ・サウスウエストでの発言において、はっきりとベーシックインカムという言葉は使ってはいませんが、しかし、ベーシックインカム以外の方法で、「AIロボット化によって職を失うことの恐れにとりつかれるべきではなく、むしろエキサイトすべきだ」と発言することはできないと思うからです。いかがでしょうか?

2 バーニーサンダース上院議員とベーシックインカム

ところで、大統領選挙への出馬声明をしているバーニー・サンダース上院議員(2020年3月の時点で、彼かジョー・バイデン上院議員のどちらかが民主党大統領候補になりそうな情勢にある:筆者註)はベーシックインカムについてどう考えているのでしょうか?

 

下記ネット記事が、「BIについて賛成か」という問いに対する彼の回答を時系列に即して網羅的な紹介をしています。

 

On the Record: Bernie Sanders on Basic Income https://medium.com/…/on-the-record-bernie-sanders-on-basic-…

 

それは、次のようにまとめていいと思います。

 

1)正面からyesまたはnoで答えず、「反対ではないが、私の政策として積極的に打ち出すという意味での賛成ではない」というニュアンスの回答をしているケース:

 

2013年12月16日。2014年5月7日。2014年10月10日。2015年5月19日。2015年7月16日。(あと、具体的な日時は不明だが、2017年のミシガン州タウンホールでの回答。) このサイトの情報によれば、前回の大統領選においては、彼の回答はすべてこのパターンだったことになります。

 

2)明確に賛成の意を表明してはいるが、自分の政策として積極的に打ち出すかと言えば、そこまで機が熟してはいない、時期尚早、と答えているケース:

 

2017年5月31日(ドイツ、ベルリンで)。この日、彼は概略次のように答えています。 「賛成です、しかし私たち(アメリカ国民)はそこにはいません(BI実現を現実の政策として政治の場に乗せる段階にはありません)。(“I do, but that is not where we are.” )」 「フィンランドのBI実験も完全に支持します。しかし、そういったステップはアメリカにとってはまだとても先のことだと思います(“I absolutely support that, but right now where we are, I mean that’s kind of a step too far right now for the United States.”)」

 

3)そして、時系列に、このサイトで紹介されている最新の回答は、今年2019年4月7日、アイオワ州マルコムでの質疑応答の中での回答で、 彼は、「アンドリュー・ヤンが付加価値税(VAT tax)を財源とするBIを公約として打ち出していますが、あなたもそうすべきだと思います(you’ve gotta do that.)」という問いかけに対して、概略次のように答えています:

 

「私にはBIよりもよりよいアイディアがあります(I’ve got a better idea.)」 (それに続く、あなたはBIをやる気がないのですか?という問いに対しては、 「いや、そうではないんですが。(Nope.)」

 

この日の彼の回答を読むと、「よりよいアイディア」というのはグリーンニューディールの雇用政策だということがわかります。

参考サイト:Bernie Sanders Enters 2020 Race, Promises Own Version of Green New Deal 

 

「賛成です、しかし私たち(アメリカ国民)はそこにはいません(BI実現を現実の政策として政治の場に乗せる段階にはありません)。」

「フィンランドのBI実験も完全に支持します。しかし、そういったステップはアメリカにとってはまだとても先のことだと思います」

「(「いや、そうではないんですが。」)」 「まだとても先のことだと思います」

 

「いや、そうではないんですが」などのこういった一連の発言に加えて、彼は 2017年(この記事中には日時は記されていないが、多分、8月22日の夜)、ミシガン州のタウンホールのタウンホールで、ニューテクノロジーが労働者に与えるインパクトについての聴衆からの質問に対して、彼は次のような発言をしています。

 

(https://www.youtube.com/watch?v=dwGl_nVPsT4 にこの質疑応答の動画があります)

 

「それ(AIやロボットの発達)は、労働者が単に解職されて道に放り出されることを意味してはいませんし、それは全ての人に対するベーシックインカムやそういったことについての一石を投じるでしょう。それは現在までのところまだ、そうされるに値する注目を得ていないという問題がありますが、しかし、それは私たちの前にホバリングしており、私たちはそれに対処しなければなりません。(That doesn’t mean you simply displace the worker and throw him or her out on the street, and that raises the question of basic income for everybody and so forth. It is an issue that has not gotten the attention it deserves, but it’s hovering in front of us and we have to deal with it.)」

 

バーニー・サンダース上院議員もまたオカシオコルテズ下院議員と同様に、AIやロボットが人間の労働者にとって替わるという事態にはベーシックインカムを実現することによって対処すべきだと考えていると、そう判断していいでしょう。政治的にも非常に近いこの二人は、ベーシックインカムについても相通じる考えを持っているように思います。

結び

1989年10月生まれ(2020年3月現在30歳)のオカシオ=コルテス下院議員が大統領選に出馬できるのは、2028年の大統領選からです。そのころにはAIロボット化の流れの中で多くの人々が職を失う中で、彼女がユニバーサルベーシックインカムを大統領選の公約にして出馬する可能性は大いにあるだろうと考えています。

 

(ここから先は2020年3月5日に付記。筆者)

また、2020年3月現在、新コロナウイルス禍の世界的広がりもある中、世界経済は悪化し、崖っぷちまで行ってしまう可能性もあります。そういう流れの中では、状況次第で、バーニー・サンダースが選挙期間中もしくは大統領に選ばれた場合の就任中にユニバーサルベーシックインカムを提唱する可能性も全くなくはないと考えています。

 

すべては状況次第ですが、当選の可能性のあるアメリカ大統領候補がユニバーサルベーシックインカムを提唱する時代はそう遠くはないと考えています。