6 「BI実現によって経済に悪影響を及ぼす程度に人が働かなくなるようなことがないこと」という条件について


 20188月、6年間に渡って国民一人一人に年178万円のBI(月額約15万円)を配っていたイランの実験結果が発表されました。  

  

https://medium.com/@teruhisafukumoto/イランでのベーシックインカム-bi-の実験結果-労働意欲に影響なし-fb1bebab8ce0 

  

それによれば、この額のBI6年に渡って配っても労働意欲に影響はなかったということです。次のブログ記事は20173月にイラン旅行をした人が書いたものですが、それによれば、イランの体感的な物価は日本の3分の1だったそうです。

  

http://harimayatokubei.hatenablog.com/entry/2017/04/10/203619 

  

つまり日本で月45万円に相当するBIを配っても労働意欲に影響はなかったことになります。当然、イランにおいてはBIによって経済に悪影響を及ぼす程度に人が働かなくなったという事実は全くありませんでした。

  

しかし、イランではそうだったからと言って、「日本で月額15万円のBIを配っても経済に悪影響を与える程度に人々が働かなくなるようなことはありえない」と断言することはできません。

  

この点について社会システム観察家・作家の駒田朗さんはその著書『最強のベーシックインカム』のP137-138で次のように記しています。

  

「いずれ働く人が減り始めるのは間違いないだろう。しかし、テクノロジーの進化によって生産性が格段に向上すれば働く人が減っても問題ない。生産性は時間と共に徐々に向上するから、ベーシックインカムもそれに合わせて徐々に増額すればよいことになる。もちろん世の中の動きを見ながら慎重に増額する。給付額が12万円程度の時期は心配ないが、給付額が10万円に近づくにつれ、慎重に判断した方がよいかもしれない。実際にどの程度の影響があるかは、やってみなければわからない。

 

 仮に生産性の向上よりも先走ってベーシックインカムの金額を増額した場合は、働く人がやや多く減ってしまうから、生産量が減り、供給が不足してインフレになるだろう。インフレになればたとえば月額10万円だけでは生活が苦しくなるから、仕事を辞めた人が再び働き始める可能性がある。つまり市場のメカニズムによって就労人口が自動的に調整されると考えられる。それでもインフレが激しい場合は一時的に給付額の伸びを止めてしまう、あるいは給付額を減らすことで対処できる。やがて機械が更に進化して生産性が高まればインフレは解消へ向かう。以上を簡単に言えば、働く人が減ってもその分だけ人工知能やロボットが生産するから経済が衰退する心配はない、ということだ」

  

また、経済学者の井上智洋さんは2018年5月22日の日本記者クラブでの講演「議論再燃!ベーシックインカム」(1) AI時代にはBIが不可欠の中で、

  

「フィンランド駐日大使は同国の実験で失業者2000人に配った月7万円ベーシックインカムについて『フィンランドのベーシックインカムの最大の目的は就労促進』『それを出すことによって、それだけでは生きていけないので、プラスαで働こうという気になる』『働いてもらうためには7万円くらいがちょうどいいんじゃないか』と言っていたがどう思うか?」

 

という司会者からの質問に対して次のように答えています。

  

「ベーシックインカムの場合には、7万円もらったあとはですね、働けば働くほどお金が稼げるんで、じゃ、7万円プラスα働きましょうという気持ちになると思うんで、ちゃんとインセンティブはしっかりついているんですね。もちろん、あの、税金は払わなきゃいけないんで、稼いだ分から税金を引いた分だけは必ず自分の実入りになるということですね」(1時間9分台)

  

「あとは、働けば働くほど儲かるような仕組みにはなってるんで、ちゃんとインセンティブっていうのはついている。だとすれば、経済はおそらく回っていくはずで、まあそれはイランとかですね、あるいはこれまでのベーシックインカムのいろんな実験でも証明されていることなんでですね、ぼくはもう、みなさんあまり心配せずにですね、あの、ベーシックインカム導入に向けてですね、あの、ぼちぼち動いていきましょうという風に思っています」(1時間13分台)

  

また、井上さんは同じ講演の1時間3分台で、「私、月7万円程度でみんなが会社やめるとは思ってないんですが、」と述べており、その著書AI時代の新・ベーシックインカム論』P271でも「7万円の給付額で会社を辞める人は極わずかだろう」と書いています。

  

井上さんも、BIが経済に与える影響を測りながら慎重に金額を上げてゆくべきだと考えています。もちろん私も。(しかし、景気対策国民積立預金制度とセットでBIを行うなら、初年度45万円から初めてもいいのではないかと思っています。)

  

ただし、高齢者については、 もっと多い、BIだけで経済的に十分生存でき幸福追求できる額を配っていいのではないかと思います。就労年齢に達しない子どもや未成年者についても、高齢者同様の、あるいはそれに準じる額でもいいのではないかとも考えます。(国や世界の将来のためにも、子育て資金はたっぷりあった方がいいと思います。また、子どもや未成年者に十分な額を配ることは有力な少子化対策になると思います。)

  

ところで、いわゆるブラック企業的体質の程度の大きい企業であればあるほど、BIによって人出不足に陥る可能性が大きいのではないかと思うのですが、長く続いているデフレの流れの中で生き残るためにブラック企業的体質を強めざるを得なかった企業も多いはずです。デフレが長く続いている責任は個々の企業にではなく、デフレを脱却できる政策を立案も実行もできなかった国にあります。国はBIとセットで、ブラック企業がそのブラックな体質から脱却させてあげることができるような政策を立案し、実行すべきだと私は思います。あるいは、ブラック企業がなくなるような産業構造の転換政策を・・・。

  

BIによって景気がよくなればブラック企業にもお金はまわるので、給料を上げる・待遇を改善する、などによって人出不足を解消できる可能性も高まるでしょう。

 

なお、「『BIが実現すると人々は働かなくなる』の人類史的意味」について、フィロソフィー編で触れたいと思います。

 

提案編 目次 に戻る

5 悪性インフレ防止等の景対策のための景気対策国民積立預金の提案 に戻る

7 どのようにして配るか に進む 

コンタクトフォームはここをクリック