内閣府長期経済統計の次の3つの長期統計に基いて1971-1981年のマネーストックM2の増加率と実質消費者物価上昇率の関係を示す表を作成してみました。(「実質消費者物価上昇率」という経済用語はないという指摘を受けました。「実質消費者物価上昇率」→「給与ないし収入ないし所得(可処分所得)に対する相対的な物価上昇率」と読み替えて、お読みください。)
1986年に始まるバブル経済期以前の時期であり、実体経済におけるマネーストックM2の増加率と実質消費者物価上昇率の関係を知るのにふさわしい時期であり、この表から、今後BIが実態経済のマネーストックM2を増加させた場合にどの程度実質消費者物価率が上昇するか、その結果、悪性インフレが起こるかどうか、を推し量ることができるのではないかと考えました。
内閣府 長期経済統計 金融
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2011/1221nk/n11_q/n11_q_7.html
内閣府 長期経済統計 物価
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2011/1221nk/n11_q/n11_q_5.html
内閣府 長期経済統計 家計
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2011/1221nk/n11_q/n11_q_2.html
内閣府長期経済統計に基づいて作成した上記の表では1970年以前の実質消費者物価上昇率はわかりません。しかし、次のURLにある統計資料を用いると、1965-1970年の実質的物価上昇率を求めることができます。
表1 我が国におけるマネーサプライの経済変数への影響
内閣府長期経済統計 物価
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je12/h10_data05.html
サラリーマンの月収と支出 表「都市勤労者世帯の月平均収入・支出」
https://shouwashi.com/transition-salary.html
この三つを基にして作成したのが次の表です。
1971-1981年の表のマネーサプライはM2で、1965-1971年のそれはM2+CDですが、後者から非居住者預金を除いたのが前者です。
また平均収入の項目については、1971-1981年の表のそれは「現金給与総額上昇率」ですが、1965-1971年のそれは「都市勤労者世帯の月平均収入上昇率」です。
そういった相違はありますが、両表を併用・総合して1965年-1981の実質的物価上昇率についてこの稿で論じることに特に問題はないはずです。
そのようにして論じれば、1965-1981年のこの時期には、専ら実体経済の成長によってマネーストック・消費者物価指数・給与上昇率が変動した時期で、年間のマネーストックの増加率が20%台半ばでも悪性インフレ、過度の実質消費者物価の上昇は全く起こりませんでした。
また、この時期ずっと、一般国民の所得(可処分所得)が名目物価上昇率を上回ってどんどん増え続け、消費が拡大した結果、各年次の実質消費者物価上昇率が基本的に全てマイナスになっていたことが確認できました。
以下、各年次のあとは給料(可処分所得)の上昇率、そのあとの【】内は実質消費者物価上昇率という書き方で、そのデータを示すと、次のようになります。
1965年プラス7.9%【マイナス1.3%】、1966年プラス10.2%【マイナス5.15】、1967年プラス9.7%【マイナス5.7%】、1968年プラス9.1%【マイナス3.8%】、1969年プラス11.5%【マイナス6.3%】、1970年プラス14.8%【マイナス7.1%】、1971年プラス14.6%【マイナス8.3%】、1972年プラス16.0%【マイナス11.1%】(ここまでが高度経済成長期)、 1973年プラス21.5%【マイナス9.8%】、1974年プラス27.2%【マイナス4%】、1975年プラス14.8%【マイナス3.1%】、1976年プラス12.5%【マイナス3.1%】、1977年プラス8.5%【マイナス0.4%】、1978年プラス6.4%(マイナス2.2%)、1979年プラス6.0%【マイナス2.3%】、1980年プラス6.3%(プラス1.4%)、1981年プラス5.3%(プラス0.4%)
これを見ればわかるように、実質物価上昇率がプラスになったのは高度成長期を8年ほど過ぎた1980年以降ですが、それでも、1980年プラス1.4%、1981年プラス0.4%でした。
同様に、今後、BIによって年間のマネーストックの増加率が10-25%になっても、1961-1981年と同じように、実体経済が成長しつつ所得の増加率が物価上昇率を上回り、過度の実質消費者物価の上昇や悪性インフレは起こらない可能性は十分あるのではないかと推測されます。